冬季 南アルプス鳳凰三山 地蔵岳(2764m)
2008.12.26
明日から南アルプス地蔵岳にYTKと登るのだが、今回は車中泊にチャレンジした。朝早くから登山するには早朝起きていく手もあるのだが、寝つきが悪い自分は3時頃出発するとなると1,2時間しか寝られない事になる。なので、この方法は前々から試したいと思っていた。9月に購入したX-TRAILは後部座席をフルフラットにするとシュラフを敷いて2人が十分寝られることはわかっていた。前座席に余分な荷物を置けばテントより広々した空間が出来るのだ。今回は、中央道韮崎が登山口最寄のI.C.なのでそこの手前の双葉S.A.の駐車場で車中泊する事にした。S.A.ならトイレ、食事に困ることはない。到着して前座席も倒して早速フラット部に移動すると、予想外に広い!テントに比べ天井の高さは変わりないが、壁が垂直なのと背もたれがある事で居住性は抜群によい。あまりに快適な空間にうれしくなり「これはバツグンにいい前泊方法だな!」と喜んで二人でがぶがぶと酒を飲んでしまった。登山者に限った話ではないと思うが、こういった手法をとる人達はそこそこいるようで、明らかに一時ストップ以外の長時間駐車している車が夜半には増えてきていた。
あまり飲みすぎて翌日に影響しても間抜けなので、1時頃にはシュラフにて就寝した。

2008.12.27
6時の目覚ましで起きると車内は予想外に冷え、シュラフから出ている顔部分だけひんやりした。外はマイナス1℃まで冷え込み、断熱効果があまりない自動車なので車内もあまり変わらない温度だろう。ただ、冬山のテントに比べれば「暖かい」部類に入るので快適そのものだった。
朝食はS.A.の食堂でうどん。準備を終え7時頃には出発した。韮崎I.C.を降りると料金は1350円(八王子I.C.より)。夜間割引が効いて半額!その後コンビニで本日の昼用および非常食を購入。登山口の御座石鉱泉には8時前に到着。駐車場には我々の1台のみ。外に出ると風が吹きつけ寒さを感じた。昨日まで非常に強い冬型の気圧配置で、通常日本海側のみの雪が八ヶ岳や南アルプスまで及んでおり、新雪が積もった事は間違いない。天気は回復傾向ではあるが山はまだまだ風が強い状態が続いているのも予想の範囲内であった。登山届けと今晩のテント場代支払いを済ませ8:35に行動を開始した。
登り始めは登山道が埋まってしまうほどの落ち葉の中を進む。雪はなかなか出てこない。鳳凰三山は南アルプスの中でも積雪が少ないという事だ。途中富士山が見えるポイント、標高1900mほどの場所で昼食を取った。今回は500ccで保温力抜群の「山専ボトル」にミルクティーを入れてきた。冬山ではペットボトルのままではザックに入れていても凍ってしまう事が多い。いちいち沸かさずに暖かい飲み物を飲めるのはメリットが大きい。昨晩入れたものだが熱々の状態で飲むことが出来た。
昼食後登りを再開するが、雪は2000m付近でうっすら出てきたが凍結と溶解を繰り返したようでガチガチに凍っているところが多い。その上に新雪がかぶっているので危険な状態だ。このあたりでようやくアイゼンを装着した。そういえば新しい靴にしたがサイズ調節してないや、と焦ったがそのままフィットし問題なし。硬い氷にアイゼンをきしませながら高度を上げていった。
途中の燕頭山(2105m)の前後から急激に風が強くなってきた。南アルプスは森林限界が高いのでまだ深い樹林帯だが、地上で味わう台風並の風が木々を揺さぶる。パン!というはじけた音がして鉄砲の音か!?とびっくりした。頻繁に聞こえるその音は、木の幹の内部が裂ける音である事が分かった。それほどに風は強く、つい最近倒れたという木をたくさん目にするようになる。いつ倒れてもおかしくないから、下敷きにならないよう注意しつつ進んだ。しばらく進み2200mを超えるあたりから急に雪の量が増えてきた。しかもトレースがない。これも予想の範囲内だが久々のラッセルという事になった。通常ひざ程度、時折腰程度という雪にうまるため歩みはかなり遅くなる。ただし急な斜面ではないのでそれほど体力は消耗せずに済んだ。今回の幕営地までもう少しというところで、ルートが二つに分かれた。標識はないのだが、赤テープが2方に分かれている。斜面を登るコースとトラバースするコースだ。トラバースする方は危険に思えたので斜面を登ったが赤テープが途絶え、方向もゴールとは違うほうに続いている。ここで、YTK所有のGPS(iPhoneアプリ)が役に立った。経度・緯度を測定しトラバースするルートが正しい事が分かった。今回はGPS使用に備え、地図に経度緯度線を引いた形で持っていったのが功を奏した。もちろん携帯電話の電波は届いてないので、地図のダウンロードは出来ないが経度緯度がわかるだけで十分だった。
程なくして標高2400付近の鳳凰小屋に到着。時刻は15:30.年末年始営業は29日からなので無人小屋となっている。ちなみに今日は登山者に誰一人として会わなかった。谷あいの地形とはいえ風が強いので冬季小屋を拝借し中にテントを張る事にした。
晩飯のYTKの奥さんに作ってもらったキムチチゲのペミカンを食べると心身温まり、冬山の醍醐味をじっくりかみしめられた。持参したウイスキーと焼酎をお湯でわり飲み20時には就寝。明日のラッセルに備えゆっくり休む事にした。

さて今日の収穫・反省点としては、
・山専ボトルは非常に便利。冬のテント山行必携アイテムに認定
・iPhoneのおまけ程度のGPSではあるが、自分の位置が分かるだけでも相当役立ちます
・チューブで吸うタイプの背負う水筒は、水筒部分が凍らなくてもチューブ内の水が凍るので使い物にならない
・携帯トイレは非常に有効。要はただのプラスチックボトルだが、テントの外の厳寒の空気に触れず用を足せるのは-15℃を下回る世界ではとても助かります(小のみ可)

2008.12.28@
夜中に寒さで時折目を覚ましたが、小屋常備の銀マット数枚を重ねているので底冷えはそれほど厳しくなかった。5時過ぎに起床し朝食の準備。並行してテルモスに入れる暖かい紅茶を作る。朝食はカレー。温めが不足してアツアツという感じにはならなかった。ザックのパッキングを終え靴を履くと足がすぐに冷えてくる。動かないと指先の感覚がなくなってくるのですぐに行動開始した。
今日のルートは、鳳凰小屋〜地蔵岳〜足を伸ばせれば観音岳〜鳳凰小屋〜ドンドコ沢経由の青木鉱泉〜御座石鉱泉だ。ただし、雪の具合から観音岳はほぼ無理かなという考えでまとまっている。外は軽い吹雪。いきなりルートがわかりづらいが膝上の深いラッセルでなんとか取り付きを発見。7:15頃登りを開始した。気温は−13℃くらいで風は吹いているが厳しいトレースでかなりの運動量となるため寒さは感じない。鳳凰小屋から地蔵岳は400m程度の登りであるが頂上はなかなか近づいて来ない。ラッセルは交代で行ったが、自分の方が消耗があったのと、YTKの念願?のラッセルという事もあり、3:7くらいの割合だった。しばらく進むと稜線に出る。ここで一気に風が強くなった。強い、というどころではなく強い台風に陸上で出会ったときよりも激しい。たまに体が浮くほどの強い風が吹くので耐風姿勢でしのぐ。ここまでは耳あて帽子のみであったが、地吹雪で顔が凍傷になりそうなので目出し帽にチェンジした。傾斜はそこそこあり、滑ったらなかなか止まりそうもない場所だ。雪は氷化しているので深いラッセルはなくなったが、風に遮られなかなか上に上がれない。途中岩陰で紅茶を飲む。体感温度−35℃以下なのは確実なので温かさが身にしみわたった。再び進み出すと今度は、雪と砂がミックスする地帯が続き足場がずるずると流れ安定しなくなった。頂上は目前なので力を振り絞って進んだ。
ここで話は変わるがこの登山の大きな目的のひとつとして、鳳凰三山からの白峰三山(主峰は北岳)の撮影があった。特に間近から見る北岳バットレスには並々ならぬ期待を持っていた。ようやく、その展望が拝める稜線に出ようとしていた。
・・・が、しかしその期待はあっけなく裏切られるのであった。少し前から予感はあったが、この地吹雪である。真上は時折青空も出るのだが東側の視界はかなり悪い。西側が見られる保障はどこにもなかった。結局稜線から眺めた白峰三山はその一峰どころか、もっと近い仙丈ケ岳や甲斐駒ケ岳もまったく見えない。強い季節風にのった氷雪が真正面から叩きつけるのみである。天気が回復傾向とはいえ、こんなところで待機していたら寒さで体がもたないので地蔵岳頂上の奇岩オベリスクを撮影し、観音岳もあきらめ早々に撤退する事にした。落胆はあったが、そんな事より早く安全な樹林帯まで戻りたい思いの方が強くなっていた。

2008.12.28A
 下りは尻セード等も出来る箇所があり、登りの倍のペースで下ることが出来た。樹林帯まで戻ると初めて別パーティーに出会った。女性3人のパーティーでどうやら夜叉神峠への縦走を行うようだ。3人とも我々より重い荷物を背負いワカンも持っていた。ラッセルの礼を言われ(初めての経験)すれ違った。下り+トレースありなので勢いよく進むと鳳凰小屋まではあっという間に戻る事が出来た。
 帰りは御座石からのルートではなくドンドコ沢を選んだ。先ほどの3人パーティーはドンドコ沢から来たようで、朝はなかったトレースがそちら方面に出来ていたのでちょうどよかった。これは助かったと思いつつそれに従い進んでいった。このあたりまで来ると樹林帯となり風はやや弱く、地蔵岳方面もよく見えた。もしかしたら今なら北岳は見えたのかなあ、と思いつつも考えてもしょうがないやとあきらめる。
 高度を下げていくと途中でトレースがなくなってしまった。不思議な事があるものだと思ったが、これは御座石鉱泉に戻ってから真相がわかった。女性3人のパーティーはドンドコ沢経由ではなく御座石鉱泉を出発したとの事であった。それなのにドンドコ側から鳳凰小屋に登った形跡があったのは、途中でルートをまたいでしまったからに違いなかった。昨日登りの際にルートがわからず分岐するトレースを付けてしまった。その誤ったルートの方に進んでしまったというわけだ。そこから無理やり尾根を越えれば確かにドンドコ沢のトレースがなくなったあたりには出ることになる。そのあたりの樹林帯にはテント泊の跡も明確に残っていた。鳳凰小屋まで進むつもりが深いラッセルとなり、日没のためやむを得ずこの場所に張ったというわけだ。後々になってだが申し訳ない事したなと思った。
 ドンドコ沢ルートは展望はそれほどよくないがいくつもの滝がある。完全凍結している滝はなかったがかなり見ごたえのあった。上から五色の滝、白糸の滝、鳳凰の滝、南精進ヶ滝と続く。特に南精進ヶ滝は高さもそこそこあり展望スポットもよい場所なのでかなりの枚数を撮影した。このドンドコ沢、滝はいいのだが道は結構歩きづらい。夏道なら気にならないだろうが、アイゼンを着けていると木の根っこがかなりじゃまになる。特に前爪があると引っ掛けないよう相当気を付けなければならない。自分のアイゼンは10本足で全て下向き爪なのでまだマシではあったがYTKは10本前爪ありなので苦労していた。
 南精進ヶ滝から少し進んだ地点でアクシデントがあった。道誤りである。青木鉱泉を示す「アオキ」の看板が前方を示している箇所の直後に、180度折り返す分岐点があったのだがそれに気づかずまっすぐ進んでしまったのだ。一見ルートに見える地形なのだが、その後は突然ガケのようになり、通行が困難になる。「これ道かなー?」とかなり怪しみつつ進むが木の根っこをつかまないと進めないようなトラバースが連続する。その先は一瞬道のようになるが少し進むと明らかに道ではなさそうな斜面だ。何度か行ったりきたりルートを探したが分からない。GPSも使ったが、そこまで細かい場所は割り出せずとりあえず標識まで戻る事にした。ここでさらにアクシデント!YTKがトラバース時につかまっていた岩(30cm×10cm×10cmくらい)がはがれたのだ。YTKの肩とひざをかすり自分の方に転がる途中でYTKがストックで止めた、が!ストックがぐにゃりと曲がってゆっくり自分の方へ。速度は無かったのでかわしたが、急斜面だったので近くの岩とストックを巻き込みすごい勢いで落ちていった。。一瞬肝を冷やしたがYTKも打撲のみですみ事なきを得た。。
先ほどの「アオキ」看板まで戻るとヘアピン気味に曲がったルートにようやく気付き、正式ルートに戻る事が出来た。
川沿いに緩やかに下るといよいよ青木鉱泉に到着。この登山も95%終了。・・・がしかし残り5%にとんでもない事が起こってしまったのであった。。。(続く)
2008.12.28B
 青木鉱泉につく頃は、4時を過ぎていてあたりはだいぶ暗くなってきていた。あとは、1時間ほど歩けば車がある御座石鉱泉に戻ることが出来る。道迷い等のアクシデントがあったから、さっさと車に戻ってゆったりしたいものだ。ここは車がこられる場所であるため小さな道があり、登山口を探すことになる。方位を確かめつつ探すと程なく見つかった。ただ登山道のほうを見て少し不安がよぎった。樹林帯で斜面もあり暗いのである。とはいえ歩いて1時間程度であれば、ヘッドランプもあるので大丈夫だろう。そう考えて進みだした。最後の1時間はあまり地図を詳しく見てなかったため気づかなかったが150mほど登って峠をこしてから降りるルートであった。しばらく進むと急登となり道がじぐざぐになり始めた。このあたりから笹が生い茂って、かつ踏み跡が不明瞭なためほとんどけもの道か?という程度のルートとなった。ここでかなり強い不安を感じた。
 迷うのでは?
 と思ったのである。ここで引き返して青木鉱泉までタクシーを呼べば、金はかかってしまうが確実に御座石鉱泉に戻ることが出来るのだ。ただ、あと45分くらい歩けばゴールでもある。標高線を見ると、もう少し登ればあとは平地となって最後は下るだけだ。タクシーの事は頭から消え、やや急いで登り始めた。途中でさらに道が不明瞭になったが、なんとか登り切り平地になった。登山の終盤に来て今までにないペースで登ったので正直息が上がった。あたりはかなり暗くなったためヘッドランプを点灯した。ルートが西寄りになる事を確認し、実際のルートもそっちに続いている事を確認した。焦りからか、進むスピードは自然と速くなった。何度か道がわからなくなる箇所があったが、ランプで照らして何とかルートを探り出した。正直このあたりからどこが踏み跡かかなりあやしい状態となっていた。地図を見ておそらくこのあたりを歩いているのだろうと、北東を目指して進んでいくと遠くに灯りが見えた!いよいよ御座石鉱泉か?このあたりで建物があるのは御座石鉱泉くらいしかない。やっと目的地が見えた。。。道も急な下りになっているので間違いないだろう。ややほっとした気分になった。あとは道がよくわからなくても目標に向かえばなんとかなるだろう。ただ地図上に川があるけどどうやって、わたろうか?などという事を考えて斜面を下り始めた。今にして思うとこのあたりで明らかにルートをロストしていた。下りの斜面はかなり急で、ルートは明らかに外しているため相当危険だ。危険ルートを避けつつ灯りを目指していったが急な崖のような箇所も出てきた。ずっと歩きづめだったので少し現状整理の意味も込めて休むことにした。
 ・・・そこで!・・・とんでもない事に気づいてしまった! 冷静に地図を見ると灯りは真東に見えるのである。本来、北西に見えなければいけない地点で、だ。東に見える地点を辿ってみると相当遠くである上、川を渡ってさらに登ったような場所であるため、知らぬ間にそこまで歩いたとは考えにくい。とすると灯りは別の建物か?いや、このあたりには御座石鉱泉以外ありえない。あの灯りはなんなのか?今はどこを歩いているのか?二人でいろいろと考えたが結局わからなかった。。
 どっと疲れが出てきた。今日は朝7時から行動してラッセルもあった。すでに行動時間12時間半を過ぎ体力的には相当消耗していた。・・・その後どうするかの結論はすぐに二人で出した。
そう、ビバークである。体力の消耗具合に加えこの暗闇ではリスクが大きすぎる。明日は休みだし明るくなってから出直そうという事にした。標高は1200m程度なので大した寒さはないし、なによりテントがある。まずは少し登り返して平らな場所を探す事にした。30m程度登ると完全な平面ではないが、そこらを見渡した限りでは一番まともな平地があったのでここを今晩の緊急幕営地とした。そこでYTKの家族に電話して日没ビバークのため今日帰れない旨を伝えた。ソフトバンクを2台持ってきてもしょうがないので、自分は会社支給のAUの携帯を持ってきていたが、それが功を奏した(SBは通じなかった)。本来は今日帰る予定だったので、とりあえず無用な心配をかけずに済む(捜索願いも出されないで済む)。余計なものはすべてテントの外に出し広々としたテント内に横たわった。いざビバークと決めてしまえば、朝を迎えるのを待つだけである。疲れているのでたっぷり眠れるだろう。楽観的なビバークにしたかったが一つ非常に大きな問題(不安)があった。
 ・・・水が無いのであった。。。
 インスタント麺等の非常食は残っていたが、水分となるものは自分の水筒にある紅茶60cc程度であったので作ることは出来ない。青木鉱泉に水場はあったのだが、あと1時間で終わりだという考えで補給しなかったのである。2000m以上であれば水に出来る雪はいくらでもあるが、ここは低山でそれも望めない。食欲もそれほどなかったため、お湯を沸かさなくても食べられるチョコレートとアンパンを二人で分けて夕食代わりにした。のどの渇きは、コップに注いだ紅茶20cc程度を分ける事でまぎらわした。
・・・続く

2008.12.28〜29
 食事が済む頃にはあたりは真っ暗になった。また長い10時間になりそうだ。。覚悟を決めてさっさと寝ることにした。
。。。が、、、
 しーんと静まったあたりからはパキッ、パキッと枝の折れる音がしょっちゅう聞こえる。さらにガサガサと獣の徘徊する音が。。
一体どれだけの動物があたりにいるのか?! なんとなく不安になった。まさかとは思うが、熊はさすがに出ないよな?とか狼は日本では絶滅したんだよな?とか今考えるとビビリまくり(笑)というほど色々考えてしまった。遠くからガサガサ歩いてきてテントの前で止まる。。と思ったら、シュラフの足を動かした音だった。。なんていう事もあった。丹沢で鹿が歩き回る中でビバークをしたYTKは全く動じていないようだった。音が聞こえないようにシュラフに潜り込んでからは少しは落ち着いた。がしかし、脱水症状が原因か不安感のせいかわからないが自分の心拍数がうるさ過ぎてほとんど眠ることは出来なかった。。
 その間に明日朝起きてからの事を色々と考えた。明るくなれば見通しがよいので、迷った道をリカバリする事が出来るだろうか。。この喉の渇きは、朝にテントに結露した水分を舐める事で癒せるだろうか。。天気はどうだろうか。晴れたほうが道を探しやすいが雨の方が水分を摂れるかも。。。
 朝は5時半くらいから少しずつ明るくなってきた。6時過ぎになったら、空身で偵察をしようという事で準備を始めた。夜中のうちに喉が渇いたので20ccの紅茶を二人で分けて飲んだ。
 テントの外に出るとさすがに寒かったがおそらくマイナス10℃には達していないだろう。風が全く無いので体を動かしだせば寒さは無くなった。周辺の偵察にあたり、テントにものを放置していくので迷うことは絶対に許されない。自分は夜中に考え付いた案を実行した。青や黄色の目立つ装備、スパッツにテントシューズを目印として40mくらいおきに木に引っ掛けて道迷い防止をするというものだ。最大4つの目印を使えば200mほどは足を伸ばせる。分かりやすい地形のところはもっと目印間隔を伸ばして、おそらく最大400mほどはルート探しのために移動した。。
 ところが、、1時間程度探し回っても御座石鉱泉はもちろん登山道にも戻れなかった。途中木に赤ペイントがあるところを発見して、「ルート復帰か!?」と喜んだのだが、市だか町だかの境界線みたいなものに過ぎず、続いていく方向からしてもルートではないように思え引き返した。水がないので余計な体力は使いたくないのだが、気持ちは焦ってぐるぐると歩き回ってしまった。。
 色々と考えを巡らしたが、結論は出ないのでいったんテントに戻る事にした。テントに戻り荷物をまとめ、今後の方針を決断する事にした。

1.ルートはよくわからないが、今のだいたいの位置はわかっているので北西に進路をとり御座石鉱泉を目指す
2.ルートはよくわからないが、青木鉱泉に戻るべく南方向に進路をとる。
3.ここにある人工物は、境界線を示す赤ペイントだけなのでそれに従って東に進む。とにかく東に突っ切れば道路があるのは明らか

 1は谷あいの地形を進み、迷った場合深みにはまるようなので却下。3は、最初YTKが考えていたが、進めば進むほど坂が急になるし道路の前に沢があるので最悪渡れないかもしれない。沢で水を飲める希望はあったが地図で見ると斜面が急なので却下。結局二人とも2案で行こうという結論になった。南方面に進めば多少ルートをはずしても青木鉱泉付近の平らな場所に出そうだ、という思考も決断を後押しした。
 そうと決まれば南進あるのみ。テントをたたんで出発するのだが、体力の低下を激しく感じた自分は不要な装備を捨てて行くことにした。それでこの渇きを少しでも防げるのであれば、という思いであった。最悪のケースに備えテントはもちろん捨てられない。自分が捨てたのはなんと、アイゼンとピッケルであった。。雪はない場所なので不要な装備ではあるが今考えるとなんと思い切った事をしたものか。。「岳人の魂」といわれるピッケルを捨てるとは。。。
 ただ、それぐらい追い詰められていたのは確かであり、今日も夜まで迷ったままだったら携帯で救助申請をするか?ぐらいの不安感があった。それぐらい山での道迷いは精神的に厳しいものであるのだ。冬の八ヶ岳での日没ビバークよりも不安は大きかった。あのときは寒さに耐え朝にさえなれば道を進むだけだったのに対し、山で進むべき道がわからないというのはある意味とてつもない「恐怖」なのだ。



 結局、それから15分も歩かないうちに登山道に復帰出来それから20分程度で御座石鉱泉には戻る事が出来た。
 今回の経験はほんとうにいい薬になった。暗くなってからの行動は厳禁。八ヶ岳や北アルプスのように登山道がしっかりしていて、通った経験があるならまだしも、獣道のような登山道で始めて通るルートでは今回の事態は起こるべくして起こったともいえる。
 最悪の救助申請という事態は免れ自力で降りられたのは運が良かった。。小屋が見えた時の安堵感は今まで生きてきて一番だったのでは?と思えるほどであった。。小屋で買ったポカリを飲んだ時の水分のありがたさは格別のものであった。飲み終わった後に缶の裏を見ると、2008年4月で賞味期限切れのものであった(8ヶ月切れ)。。体調は壊さなかったが。。。


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