厳冬期 北八ヶ岳「東天狗岳(2643m)・西天狗岳(2646m)」

食べ終わった頃、あたりは大分暗くなってきていた。ザックからツエルトを出し広げる。まさか使う事になるとは。。小屋の陰で雪がないところに設営した。 最悪寒さに耐え切れなくなったら小屋の窓でもブチ破って、中にあるであろう毛布にでもくるまればいいやという覚悟も持っていた。6時半頃から体育座りの格好で夜明けを待つ事を開始。丸半日待つ事になる。この後どれくらい冷えこんで来るのだろうか?正直不安しかない状態だ。ビバーク開始して最初の数時間はどうでもよい会話を続けて時間をつぶした。それでも日付が変わるには程遠い。あまりに時間が経つのが遅く感じるのでしりとりでもするか(笑)ということになり結構な回数をやった気がする。そのうちにようやく0時を過ぎた。時計はなるべく時間をおいて見るようにした。しょっちゅう見るとあまりに時間が進んでおらずにショックを受けるからだ。見たいのを相当ガマンして1時間進んでいた時にはかなりの喜びがあった。眠気はほとんど来ない。ラッセルで相当疲れているのだがこの状況が頭をそうさせてくれないのだろうか?
1時くらいになった頃、足がひどく冷たくなってきた。雪が入らないようにしていたはずなのに異常に冷たい。登山靴に雪や水が入りビバーク中に凍って凍傷になるのはよくあるケースだ。そんな話を知っていたので靴を脱ぐ事にした。タオルでくるみ、さらにビニール袋で覆った上で両足をザックにつっこんだ。さっきよりちょっとはマシかなーというレベルで改善された気がした。だが実際の温度とは違う体感の寒さのピークは2時過ぎにやってきた。かなり寒い。体をゆすってあっためてもすぐに寒さが戻る。たまらずストーブを点ける事にした。ところがなかなか火が付かない。カチッカチッと空しい音を繰り返すのみで点かない。今回はライターを忘れていたのでバーナーヘッドで点火するしかない。お湯も沸かせないのか・・・と絶望しかけたが3分程悪戦苦闘した結果UDAが点火に成功した。点けると相当暖かい。ツエルトの内側はあっという間に結露してビショビショになった(ヒマラヤでは内側が凍りつくらしい)。ただし、なんとなく息苦しくなり酸欠か?と心配になり定期的に消火。後で分かったがツエルトくらい隙間があればそんな心配は無用らしい。閉め切って練炭燃やしてるわけではないので。。

そんな事を繰り返していたが足の寒さがどうにもならない。靴下に手を突っ込んで触ったらビックリした。あまりの冷たさに!凍傷になる!という恐怖があったので手でしっかりもみほぐすが一時的にしかあったまらない。それでもやらないよりはマシ、と続けた。何分、何時間過ぎただろうか?そうしてるうちに体も冷えてきた。正直この狭いツエルトに同じ格好でじっとしているので腰がものすごく痛くなってきていた。頭の中では小屋のガラスをぶち破って布団(あるかわからんが)に入りて〜〜という誘惑がかなり自分を脅かしていた。しかしガマンのしどころ、、もう少しだという思いもしっかり残っている。エコノミークラス症候群になるのでは、というつらい体勢でしばらく過ごした。

しかし、いよいよ寒さがガマンならなくなりとっておきの飲み物を飲む事にした。コーヒーだ。。。よくコンビニで売ってるコップ2つに粉、マドラー付きという奴だ。せまい中でコッヘルを用意しお湯を沸かそうと思ったが水はカチンカチン状態。少し減ったアミノサプリの方が溶かしやすそうだ、という判断でペットボトルを火から20cm程離してあぶる。誤って近づけすぎてプラスティックのラベルが一部溶けてしまう。慎重に少しずつ溶かし振って砕けるくらいにしてからコッヘルに注いだ。量は80ccほどだろうか。地道に溶かし軽く沸騰し一杯目をつくりコップに注いだ。 ところが!! せまい中でゴソゴソと体を動かしているうちにコップをこぼしてしまった! この時のショックといったら。。。焼き終わった特上カルビを網の隙間から落としたとでもいおうか、、ヘネシーXOをストレートで飲もうとしてグラスごとこぼしたというべきか、、、いや、そんな事とは比較にならない程ショックだった。コーヒーはまだあったがそんな事より早くあったかい物が飲みたかったのでアミノサプリを再びあっためて頂くことにした。一口飲むと、、、、うまい!!疲れて糖分を欲している事もあったかもしれないが体が相当にあったまった。80cc程度を繰り返し沸かし交互に飲んだ。繰り返す事20回はしただろうか・・・。後で知った事だが冬山は乾燥しているため汗をかいてる感覚が無くても水分がどんどん失われるらしい。ヒマラヤ登山では一日に4リットルの水分を取り込む事が必須らしい。そうしないと血液がドロドロになり血行が悪くなり凍傷へつながるわけだ。事実昼間のラッセルでたっぷり汗をかき十分な水分補給が出来てなかった我々はこの数杯のホットアミノサプリを飲んだ後、足の冷えが一気になくなり寒さも相当やわらいだのだ。この頃には時刻も4時を過ぎていた。あと2時間。そうすれば外も明るくなり行動を開始出来る。お互い何度か眠さで意識を失いながらその時間を待った。

6時か6時半くらいだろうか?もうあまり覚えていない。外がやや明るくなってきた。座った姿勢は辛いので早速行動を開始する事にした。まずは靴をあっためる。冷たい靴を履いたのではまた凍傷の危険がある。火から少し離してあぶる。かなりの時間を費やしたが靴は冷たいままだった。けどやらなかったよりはマシな気がした。換え靴下を履いた後に一気に足を通す。この頃から元気が沸いてきた。おおげさかもしれないが生きて朝を迎えられた。ツエルトがなかったら凍死の可能性もあった。ストーブがなかったら死にはしなくてもそうとう辛かったのではないか?自己満足かも知れないが、危機脱出の喜びが確かにあった。
To be Continued...

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